冷媒系統に空気混入すると何が起こるのか?
冷媒系統に空気が混入することによるリスク
業務用エアコンのプロが分かりやすく解説
業務用エアコンやビル用マルチのトラブルで、
「高圧がやたら高い」「冷えが悪い」「コンプレッサーがよく止まる」
といった症状に出会うことがあります。
その原因の一つが、**「冷媒系統への空気(不凝縮ガス)の混入」**です。
京匠技研株式会社では、日常的に商業施設や介護施設、工場などの空調設備を点検・修理していますが、
空気混入は“すぐ壊れないけれど、ジワジワ効いてくる厄介な問題”だと感じています。
この記事では、
- 冷媒系統に空気が入ると何が起こるのか
- どういう現場で混入しやすいのか
- どんな症状が出たら疑うべきか
- プロとしてどう対処しているか
を、専門的な内容を交えつつ、できるだけ分かりやすく解説します。
1. 冷媒配管の中は本来どうなっているのか
まず前提として、冷媒配管の中は本来
- 冷媒ガス・冷媒液
- 冷凍機油(コンプレッサーオイル)
- ごくわずかな水分(理想はゼロに近い)
だけが流れている閉じた世界です。
ここに**空気(窒素・酸素・水分など)**が入り込むと、
- 冷媒とは混ざらず「不凝縮ガス」として居座る
- 酸素と水分がオイルや金属と反応しやすくなる
ことで、圧力・温度・オイル・金属部品に少しずつ悪影響を与えます。
2. 空気が混入すると起こる主なトラブル
2-1. 高圧側の圧力が上がる(不凝縮ガスの影響)
冷媒が凝縮するコンデンサー(室外機側の熱交換器)には、本来「冷媒の蒸気」だけが流れています。
そこに空気が混ざると、
全体の圧力 = 冷媒の蒸気圧 + 空気(不凝縮ガス)の圧力分
となり、同じ温度でも余計な圧力が上乗せされる状態になります。
その結果:
- 高圧圧力が通常よりも高くなる
- 高圧カットが頻繁に働く
- 吐出配管やコンデンサー周辺の温度が必要以上に高くなる
などの症状が出てきます。
2-2. 熱交換が悪くなり「冷えない」
コンデンサー内部では、本来
- 冷媒蒸気が配管の内側を流れる
- 外側を通る外気(または冷却水)に熱を渡す
- 冷媒が液に戻る
という熱交換が行われています。
ところが、不凝縮ガスがコンデンサーの上側などに溜まると、
その部分は**冷媒が触れない“死んだ面積”**になり、実質的な熱交換面積が減少します。
その結果:
- 熱がうまく吐き出せない → コンデンシング温度が上昇
- 冷媒側の圧力も上昇
- 室内側の冷えも悪くなり、能力低下
といったトラブルにつながります。
2-3. コンプレッサーへの負荷増大・寿命短縮
高圧側の圧力が上がると、コンプレッサーは
- 「低圧 → 高圧」への圧縮比が大きくなる
- その分、モーターに負担がかかる
- 吐出ガス温度も高くなる
という状態で運転し続けます。
これにより、
- モーター電流が増え、過負荷保護が働きやすくなる
- オイルが高温にさらされて劣化・炭化(スラッジ化)しやすくなる
- 長期的には巻線焼損やメカニカルな故障のリスクが高まる
といった形でコンプレッサー寿命を縮める要因となります。
3. 水分+酸素が引き起こす「見えない劣化」
空気には必ず水分が含まれています。
冷媒配管内で、
- 高温・高圧
- 金属(銅・鋼・アルミなど)
- オイル
が揃うと、酸化・加水分解が進みやすい環境になります。
代表的な悪影響としては:
- オイルの酸化・有機酸の生成
→ 巻線の絶縁やベアリングを傷める - 銅メッキ現象
→ 溶けた銅が再析出してベアリングなどに付着し、摩耗を招く - スラッジ・ワニスの発生
→ オイルが焦げて樹脂状になり、オイル通路やストレーナ、膨張弁を詰まらせる - 膨張弁・キャピラリーの詰まり
→ 水分が低温部で凍結し、流路をふさいでしまう
こうした現象は目に見えにくいのですが、数年単位で確実に機械の寿命を削っていきます。
4. 現場でよくある「空気混入パターン」
実際の工事・修理の現場で、空気が混入してしまう典型的なケースは次のようなものです。
- 真空引き不足
- 時間短縮のために十分な真空引きが行われていない
- ミクロンゲージではなく、ゲージマニホールドだけ見て判断してしまう
- 真空破壊の方法が不適切
- 真空解除を窒素ではなく大気で行う
- マニホールドホース内に残った空気ごとバルブを開けてしまう
- 配管開放時間が長い
- 配管を大気に晒したまま長時間放置
- 雨の日や湿度の高い日に工事を行い、水分を多く吸い込んでしまう
- 低圧側のピンホールリーク
- 長期間、わずかに“吸い込み”状態になっている
- 定期的に冷媒を足しているが、実は空気も増えていっている
- 窒素ブローの代わりにエアブローをしてしまう
- 圧縮空気で配管掃除をすると、水分・油分を一緒に送り込んでしまう
5. こんな症状が出たら「不凝縮ガス」を疑う
現場で次のような状況がみられる場合、
冷媒量や熱交換の問題だけでなく、空気混入も疑う価値があります。
- 冷媒量は規定値に近いのに、高圧側だけ妙に高い
- コンデンサー(室外機)や冷却水はしっかり冷えているのに高圧が高い
- 吐出温度が高めで、モーター電流もやや大きい
- 冷え方・能力が設計値より明らかに低い
- 冷媒を少し抜いても、高圧があまり下がらない
- 年々、夏場になると高圧カットが出やすくなってきた
こうした場合、単なるガス過充填だけでなく、
不凝縮ガス(空気)の混入が隠れていることがあります。
6. 京匠技研株式会社で行っている対策・対応
6-1. 新設・更新工事での予防
京匠技研では、新設・更新工事の際に次の点を徹底しています。
- ミクロンゲージを用いた真空引き
→ “とりあえず負圧になったからOK”ではなく、
一定の真空度まで下げ、保持状態も確認 - 配管開放時間の短縮
→ キャップは結線直前まで外さない
→ 高湿度の日の工事では特に注意
6-2. 既設機で空気混入が疑われる場合の対応
既に運転中の設備で不凝縮ガスが疑われる場合は、
状況に応じて次のような対応を行います。
- 不凝縮ガスのパージ(ガス抜き)
- 凝縮器上部などガスが溜まりやすい部分から慎重にガスを抜く
- 冷媒も一緒に抜けるため、回収機を用い、法令・環境面に配慮しながら作業
- 冷媒全量回収 → 真空 → 新冷媒充填
- 重度の場合、冷媒を一度全て回収して真空引きをやり直し、
新しい冷媒を適正量充填する方が確実なケースもあります。
- 重度の場合、冷媒を一度全て回収して真空引きをやり直し、
- オイル・ドライヤの交換
- 酸価が高い・スラッジが多いなどの場合は、
冷凍機油の交換やフィルタドライヤの交換も行い、
水分・酸・スラッジを同時に除去します。
- 酸価が高い・スラッジが多いなどの場合は、
7. まとめ:空気混入は「静かな設備トラブル」
冷媒系統への空気混入は、
- すぐに機械が止まるような派手な故障ではない
- しかし、高圧上昇・能力低下・オイル劣化・腐食などを通じて
- 数年単位で設備の寿命をじわじわ削っていく
という、見えにくいけれど確実に効いてくるトラブルです。
- 高圧がいつもより高い
- 冷えが悪い
- 冷媒量を調整しても改善しない
といった症状が続く場合は、早めに原因を突き止めておく方が、
結果的にトータルコストを抑え、設備を長持ちさせることにつながります。
業務用エアコン・ビル用マルチの診断・点検はお任せください
京匠技研株式会社では、
商業施設・介護施設・医療施設・工場などの業務用空調設備の修理・更新工事・保守点検を行っています。
- 高圧が高い
- 冷えが悪い
- コンプレッサーの停止が増えてきた
など、原因がはっきりしないトラブルでお困りの際は、
**冷媒系統の状態チェック(不凝縮ガスの有無・冷媒量・オイル状態など)**も含めて診断いたします。
冷媒系統のトラブルや業務用エアコンの不具合で気になる点がありましたら、
どうぞお気軽にご相談ください。
