後退と諦め

後退と聞くと、
多くの人はネガティブに受け取る。
逃げた。負けた。諦めた。
そんな言葉と一緒に語られがちだ。

だが、現場で長くやっていると分かる。
後退と、諦めはまったく別物だ。

後退とは、立て直すための判断。
諦めとは、考えることを手放すこと。

この二つを混同すると、
人は前に進むために、無理を重ねてしまう。


若い頃は、引くことが怖かった。
下がったら終わりだと思っていた。
一度手を離したら、二度と戻れない気がしていた。

だから、無理だと分かっていても進んだ。
疲れていても止まらなかった。
引き際が見えなくなった。

結果、判断は鈍り、視野は狭くなり、
余計な失敗を増やしていった。

後になって気づいた。
あの時必要だったのは、前進ではなく後退だった。


一歩下がって、距離を取って、状況を見直す。
何が起きているのか。
何が原因で、何がリスクなのか。
自分の体力と時間で、どこまでが現実的なのか。

それを整理する時間をつくる。

それは逃げではない。
むしろ、前に進むための準備だった。

後退は、戦いをやめることではない。
戦い方を変えることだ。
勝ち方を整え直すことだ。


後退できる人間は、
自分の状態を冷静に見ている。

まだ戦えるか。
いまは立て直すべきか。
進むべきなら、どこまで進むか。
引くなら、どこで止めるか。

その判断ができる。

諦める人間は、
判断そのものから降りてしまう。
どうでもよくなる。
責任からも、可能性からも距離ができてしまう。

後退は、可能性を残す。
諦めは、可能性を閉じる。

この違いは大きい。


仕事でも、人間関係でも同じだ。
距離を取ることは、関係を捨てることではない。
一度離れることで、守れるものもある。
冷静さを取り戻せることもある。
続けるための形を変えられることもある。

自分は、後退を選べるようになってから、
長く立ち続けられるようになった。

無理をしない。
だが、投げ出さない。

引くべき時に引き、
進むべき時に進む。

それだけのことだ。

後退できる人間は、実は一番、前を向いている。
そう思っている。