仕事の質
こ人から、こんな話を聞いた。
ある住宅メーカーに、老夫婦から戸建ての注文が入った。
二人とも膝が悪そうだったという。
そこで大工は、階段を“少し変えた”。
階段の高さを、上にいくほどほんのわずかずつ低く設計したそうだ。
最初は気づかない程度の差。
だが、登るにつれて「なぜか楽だ」と感じる。
階段は後半ほど疲れが出る。
息が上がり、膝が重くなる。
そのタイミングで、自然と負担が軽くなるようにしておく。
均等に作る方が、よほど簡単だ。
そこにあえて“均等ではない優しさ”を入れるには、
手間も、技術も、神経も要るはずだ。
それでも、その工夫を老夫婦には伝えなかった。
「ここ、こだわったんですよ」と言うこともない。
ただ、暮らしが楽になることだけを願って、黙って仕上げた。
ここに、職人の仕事の本質があると思う。
仕事というのは、
見えるところを立派にすることではない。
本当の差は、見えないところに出る。
相手が気づかない場所で、
相手が困る未来を先に消しておく。
“困らない毎日”を、仕組みとして作っておく。
それは派手ではない。
称賛もされにくい。
だが、暮らしと仕事を長く支えるのは、いつもそこだ。
特別なことをするために、特別なことをするわけではない。
特別な結果を出すために、
普段通りの当たり前を崩さない。
目立たせない。
押し付けない。
ただ、静かに整える。
私も、そういう仕事を続けていきたい。
「すごいですね」と言われるためではなく、
「気づいたら、ずっと快適だった」
そう思ってもらえる仕事を積み重ねたい。
見えないところで最高の仕事をする。
それが本当の職人だと、改めて感じた。
