業務用エアコンの冷凍能力とCOPを計算|モリエル線図で見る過熱度5K・0Kの違い
論理的に冷凍サイクルを深く考察していく
モリエル線図で見る過熱度5K・0Kの違いについて
久しぶりの技術ブログとなります。
毎日空調機を点検なり修理しているのですが、この運転データを活用し冷凍サイクルについて深く理解してみたいと思います。
空調というものがいかに奥深いものなのか、今回は、5馬力の天井カセット形ペア機を例に計算してみます。
主な条件は次のとおりです。
・冷媒:R32
・室内温度:25℃
・室内湿度:55%
・吸い込み温度:25℃
・吹き出し温度:10℃
・低圧:0.8 MPaG
・高圧:2.7 MPaG
・吸入管温度:約8℃
・室内機風量:26 m3/minと仮定
・吹き出し相対湿度:95%と仮定
これらの条件から、
「実際にどのくらいの熱を室内から取り除いているのか」
「冷媒は1時間にどのくらい循環しているのか」
「圧縮機はどのくらいの仕事をしているのか」
「COPとは何を表しているのか」
といった部分を、第一種冷凍機械責任者(一冷)の試験でも登場する考え方を使いながら見ていきます。
ちなみに私は一冷を取得するのに毎日夜中2時まで勉強して2年かかりました。
まず専門用語を簡単に整理
冷凍能力、冷凍効果、圧縮軸動力、COP。
冷凍を勉強していない方には、この時点で「何のこと?」となるかもしれません。
まずは簡単に意味を整理します。
冷凍能力とは
冷凍能力とは、
「エアコンが1秒間にどれだけの熱を室内から取り除けるか」
を表す数値です。
単位はkWです。
例えば冷凍能力12.4 kWなら、1秒間に約12.4 kJの熱を室内から取り除いていることになります。
冷凍効果とは
冷凍効果とは、
「冷媒1 kgが蒸発器を通過するときに、どれだけ熱を吸収するか」
という数値です。
単位はkJ/kgです。
冷凍能力が装置全体の能力なのに対して、冷凍効果は冷媒1 kg当たりの能力と考えると分かりやすくなります。
冷媒循環量とは
冷媒循環量とは、
「1秒間に何kgの冷媒が冷凍回路を流れているか」
という数値です。
例えば0.05 kg/sなら、1秒間に約50 gの冷媒が回路を流れていることになります。
これを1時間当たりに直すと、
0.05 × 3600 = 180 kg/h
となります。
180 kgの冷媒が機械の中に入っているという意味ではありません。
同じ冷媒が何度も循環し、その通過量を合計した数字です。
圧縮軸動力とは
圧縮機は、低圧の冷媒ガスを吸い込み、高圧まで圧縮します。
当然、そのためには仕事が必要です。
この圧縮機を回すために必要な機械的な仕事を、圧縮軸動力といいます。
単位はkWです。
今回計算する「理論圧縮軸動力」は、損失などを無視した理想的な圧縮に必要な動力です。
そのため、実際のエアコンの消費電力とは異なります。
COPとは
COPは成績係数と呼ばれます。
簡単に言えば、
「使った動力に対して、どれだけ冷房能力を得られたか」
を見る数字です。
例えば、
冷凍能力 = 12.4 kW
理論圧縮軸動力 = 2.49 kW
なら、
COP = 12.4 ÷ 2.49
COP = 約4.98
となります。
つまり理論上は、圧縮機に1の仕事を与えることで、約4.98の冷房効果を得ているという意味です。
COPが1を超えるのは不思議に感じるかもしれません。
エアコンは電気を直接「冷たさ」に変えているのではなく、電気を使って室内の熱を室外へ運んでいるためです。
1.まず空気側から冷房能力を考える
今回の室内条件は、
吸い込み温度:25℃
吸い込み湿度:55%
吹き出し温度:10℃
です。
吸い込みと吹き出しの温度差は15℃あります。
ただし、これだけでは冷房能力は求められません。
エアコンは空気の温度を下げるだけではなく、空気中の水分を結露させ、除湿も行っているからです。
そのため今回は、空気の「比エンタルピー」の差を使います。
比エンタルピーとは
簡単に言えば、
「その空気が持っている熱エネルギー量」
と考えると分かりやすいと思います。
吸い込み空気の比エンタルピーを約52.88 kJ/kg、
吹き出し空気の比エンタルピーを約28.31 kJ/kg、
とします。
差は、
52.88 - 28.31 = 24.57 kJ/kg
です。
つまり、乾き空気1 kgが室内機を通過するときに、約24.57 kJの熱が取り除かれる計算になります。
2.風量から空気の質量を求める
室内機の風量を26 m3/minと仮定します。
吸い込み状態での空気の比体積を約0.8594 m3/kgとすると、
空気質量流量 = 風量 ÷ 比体積
となります。
26 ÷ 60 ÷ 0.8594
= 約0.504 kg/s
つまり、室内機には1秒間に約0.504 kgの乾き空気が流れていることになります。
3.冷房能力を求める
冷房能力は、
冷房能力 = 空気質量流量 × 空気のエンタルピー差
です。
したがって、
冷房能力 = 0.504 × (52.88 - 28.31)
冷房能力 = 約12.4 kW
となります。
今回の仮定条件では、この5馬力エアコンは約12.4 kWの熱を室内から取り除いているとします。
ここから冷媒側の計算へ進みます。
4.低圧0.8 MPa、高圧2.7 MPaをモリエル線図で見る
現場で測定する圧力は通常ゲージ圧です。
今回は、
低圧 = 0.8 MPaG
高圧 = 2.7 MPaG
とします。
モリエル線図では絶対圧力を使うため、大気圧約0.101 MPaを加えます。
低圧側:
0.8 + 0.101 = 0.901 MPaA
高圧側:
2.7 + 0.101 = 2.801 MPaA
となります。
5.R32の飽和温度を調べる
R32の場合、
低圧0.901 MPaAに対応する飽和温度は約3.3℃
高圧2.801 MPaAに対応する飽和温度は約45.1℃
となります。
したがって今回のモデルでは、
蒸発温度 = 約3.3℃
凝縮温度 = 約45.1℃
です。
ここで注意したいのは、この3.3℃というのは吹き出し空気の温度ではないということです。
蒸発器内部で冷媒が沸騰しているときの飽和温度です。
6.圧縮比も計算できる
圧縮比は、
圧縮比 = 高圧絶対圧力 ÷ 低圧絶対圧力
です。
2.801 ÷ 0.901
= 約3.11
となります。
今回の圧縮比は約3.11です。
7.過熱度5Kとは何か
今回の蒸発温度は約3.3℃です。
圧縮機吸入側の冷媒温度が約8.3℃だったとします。
過熱度は、
過熱度 = 吸入冷媒温度 - 蒸発温度
なので、
8.3 - 3.3 = 5.0℃
つまり、
過熱度 = 5K
です。
Kと書くと難しく見えますが、温度差だけを考える場合、
5K = 5℃の温度差
と考えて問題ありません。
8.モリエル線図の4つの点
冷凍サイクルは、大きく4つの状態で考えます。
1点:圧縮機吸入
2点:圧縮機吐出
3点:凝縮器出口
4点:膨張弁出口
流れとしては、
1 → 2 圧縮
2 → 3 凝縮
3 → 4 膨張
4 → 1 蒸発
です。
9.過熱度5Kの場合のモリエル線図
今回の条件でR32の状態を計算すると、概ね次の値になります。
1点 圧縮機吸入
温度:約8.3℃
h1 = 約522.08 kJ/kg
2点 理論圧縮後
温度:約82.0℃
h2 = 約569.36 kJ/kg
3点 凝縮器出口
温度:約45.1℃
h3 = 約286.52 kJ/kg
4点 膨張弁出口
h4 = 約286.52 kJ/kg
膨張弁の前後では、
h3 = h4
となります。
膨張弁を通ると圧力と温度は大きく下がりますが、理論上はエンタルピーは変わらないものとして扱います。

10.冷凍効果を求める
冷凍効果は、
冷凍効果 = 圧縮機吸入エンタルピー - 膨張弁出口エンタルピー
です。
冷凍効果 = h1 - h4
冷凍効果 = 522.08 - 286.52
冷凍効果 = 235.56 kJ/kg
となります。
つまり、今回の条件では、
冷媒1 kgが蒸発器を通過する間に約235.6 kJの熱を室内から受け取っている
という計算になります。
11.冷媒循環量を求める
先ほど空気側から、
冷凍能力 = 約12.4 kW
と求めました。
冷媒1 kg当たりの冷凍効果は、
235.56 kJ/kg
です。
したがって、
冷媒循環量 = 冷凍能力 ÷ 冷凍効果
です。
冷媒循環量 = 12.4 ÷ 235.56
= 約0.0526 kg/s
1時間当たりにすると、
0.0526 × 3600
= 約189.5 kg/h
となります。
今回の計算では、約190 kg/hの冷媒が回路を循環していることになります。
12.理論圧縮仕事を求める
圧縮機で冷媒1 kgを低圧から高圧へ圧縮するために必要な仕事は、
理論圧縮仕事 = h2 - h1
です。
569.36 - 522.08
= 47.28 kJ/kg
となります。
冷媒1 kgを圧縮するのに、理論上約47.3 kJの仕事が必要ということです。
13.総理論圧縮軸動力を求める
今度は冷媒1 kgではなく、実際に1秒間に流れている冷媒全体で考えます。
総理論圧縮軸動力= 冷媒循環量 × 理論圧縮仕事
です。
0.0526 × 47.28
= 約2.49 kW
したがって、
総理論圧縮軸動力 = 約2.49 kW
となります。
ここでいう2.49 kWは、実際に電力計で測定したエアコンの消費電力ではありません。
冷媒を理想的に圧縮するために必要な理論上の圧縮軸動力です。
実機では、
・圧縮機の損失
・モータの損失
・室内ファン
・室外ファン
・制御基板
などにも電力を使用します。
14.凝縮器から放出する熱量
冷媒は室内から熱を受け取っています。
さらに圧縮機で仕事を加えられています。
そのため、室外機から放出する熱は、室内から取り除いた熱より大きくなります。
凝縮器放熱量は、
冷凍能力 + 圧縮軸動力
と考えられます。
12.4 + 2.49
= 約14.89 kW
です。
つまり、
室内から約12.4 kWの熱を取り除き、
圧縮機から約2.49 kWの仕事が加わり、
室外機側では合計約14.9 kWの熱を放出する、
という熱収支になります。
15.理論COPを求める
いよいよCOPです。
COPは、
COP = 冷凍能力 ÷ 圧縮軸動力
です。
12.4 ÷ 2.49
= 約4.98
となります。
理論COP = 約4.98
です。
これは、
「理論上、圧縮機に1の仕事を与えることで約4.98の冷房能力を得ている」
という意味です。
16.では過熱度0Kならどうなるのか
次に、同じ圧力条件で過熱度0Kの場合を考えます。
蒸発温度は約3.3℃です。
過熱度0Kなら、
吸入冷媒温度 = 約3.3℃
となります。
モリエル線図上では、圧縮機吸入点がちょうど飽和蒸気線上に来ます。
今回、計算上は、
「冷媒がすべて蒸発し終わった直後」
つまり乾き飽和蒸気として計算します。

17.過熱度0Kの場合の計算
過熱度0Kの場合、
h1 = 約515.85 kJ/kg
h2 = 約561.49 kJ/kg
h3 = 約286.52 kJ/kg
h4 = 約286.52 kJ/kg
とします。
冷凍効果は、
515.85 - 286.52
= 229.33 kJ/kg
冷媒循環量は、
12.4 ÷ 229.33
= 約0.0541 kg/s
1時間当たりでは、
0.0541 × 3600
= 約194.7 kg/h
理論圧縮仕事は、
561.49 - 515.85
= 45.64 kJ/kg
総理論圧縮軸動力は、
0.0541 × 45.64
= 約2.47 kW
理論COPは、
12.4 ÷ 2.47
= 約5.02
となります。
18.過熱度5Kと0Kを比較
過熱度5Kの場合
吸入温度:約8.3℃
冷凍効果:約235.6 kJ/kg
冷媒循環量:約189.5 kg/h
理論圧縮軸動力:約2.49 kW
理論COP:約4.98
過熱度0Kの場合
吸入温度:約3.3℃
冷凍効果:約229.3 kJ/kg
冷媒循環量:約194.7 kg/h
理論圧縮軸動力:約2.47 kW
理論COP:約5.02
今回の理論モデルでは、過熱度0Kの方がCOPはわずかに高くなります。
ただし、
「では過熱度0Kにした方がいい」
という意味ではありません。
19.過熱度0Kはどのような状態なのか
ここは実際のサービスでは非常に重要です。
理論計算では、
過熱度0K = ちょうど蒸発が完了した乾き飽和蒸気
として計算できます。
しかし、現場で低圧と配管温度を測定して、
過熱度0Kだった
というだけでは、冷媒が完全に蒸発しているとは限りません。
例えば、
乾き度100%
つまり冷媒が全部蒸気になった状態でも、
飽和温度は約3.3℃です。
一方、
液冷媒が少し残っている湿り蒸気状態でも、
気液が共存している間は同じ飽和温度になります。
つまり、
「過熱度0Kだから液冷媒は絶対にない」
とは判断できません。

20.なぜ少し過熱度を持たせるのか
圧縮機が基本的に吸い込みたいのはガス冷媒です。
液冷媒が大量に圧縮機まで戻ると、
・冷凍機油の希釈
・潤滑不良
・液戻り
・液圧縮
などにつながる可能性があります。
そのため、蒸発器で冷媒を完全に蒸発させたあと、ある程度の過熱を持たせることで、
「圧縮機まで液を戻しにくくする」
という意味があります。
ただし、必要な過熱度は機種や制御方式によって異なります。
一律に「5Kが正常」「0Kなら異常」と判断できるものではありません。
21.過熱度が小さいときに考えること
例えば次のような項目を確認します。
・電子膨張弁の制御状態
・冷媒供給量
・室内機の風量
・フィルターや熱交換器の汚れ
・室内ファンの状態
・蒸発器の着霜
・室内負荷
・温度センサーの状態
・圧力センサーの状態
・測定位置
・配管温度計の接触状態
特に注意したいのは、
「過熱度が小さい = 冷媒が多すぎる」
と即断しないことです。
冷媒量だけでなく、空気側の風量や負荷、膨張弁制御などによっても変化します。
22.今回の吸入管温度8℃ならどうなるか
今回、
低圧 = 0.8 MPaG
です。
R32では、この圧力の蒸発温度は約3.3℃です。
吸入管温度が8℃なら、
過熱度 = 8 - 3.3
= 約4.7K
となります。
つまり、今回の実測例はほぼ「過熱度5K」のモデルに近い状態です。
23.吐出管温度65℃はどう考えるか
今回の理論計算では、
低圧0.8 MPaG
高圧2.7 MPaG
過熱度5K
という条件から理論圧縮をすると、吐出温度は約82℃となります。
しかし提示した実測例では、吐出管温度は65℃です。
この差を見て、
「65℃だから異常」
と判断することはしません。
実際の現場では、
・測定している位置
・配管表面温度と冷媒ガス温度の差
・圧縮機構造
・インバーター回転数
・冷媒冷却
・外気への放熱
・運転状態
・測定時点
などが影響します。
つまり、理論サイクルと実機の測定値は完全には一致しません。
24.今回の計算結果
今回の過熱度5Kのモデルでは、
冷凍能力:約12.4 kW
冷凍効果:約235.6 kJ/kg
冷媒循環量:約0.0526 kg/s
冷媒循環量:約189.5 kg/h
理論圧縮仕事:約47.3 kJ/kg
総理論圧縮軸動力:約2.49 kW
凝縮器放熱量:約14.89 kW
理論COP:約4.98
となりました。
25.冷凍理論は現場の数値を理解するための道具
現場では、
低圧0.8 MPa
高圧2.7 MPa
吸入管8℃
吹き出し10℃
といった数字を測定します。
それだけでも点検はできます。
しかし冷凍理論を使うと、
低圧から蒸発温度を求め、
吸入温度から過熱度を求め、
モリエル線図からエンタルピーを求め、
そこから冷凍効果を計算し、
冷媒循環量を計算し、
さらに圧縮軸動力やCOPまでつなげることができます。
つまり、
圧力を見る。
温度を見る。
そして、
「なぜこの数字になるのか」
まで考えることができます。
第一種冷凍機械責任者などで勉強する冷凍理論は、試験問題を解くためだけの知識ではありません。
実際の空調設備で測定した圧力や温度に意味を持たせ、機械の中で何が起きているのかを考えるためにも使うことができます。
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