低圧受液器とは?満液式蒸発器の仕組みをp-h線図と計算で論理的に解説
低圧受液器を使った満液式冷凍装置はどう動くのか
業務用エアコンで多く使われている直膨式では、膨張装置から蒸発器へ供給された冷媒を蒸発させ、出口では基本的に蒸気の状態として圧縮機へ戻します。
一方、大型の冷凍設備などでは、低圧受液器に液冷媒を保持し、液ポンプを使って蒸発器へ冷媒を循環させる方式があります。
これは、満液式蒸発器を用いる方法の一つです。
今回は、第一種冷凍機械責任者を勉強していた頃のノートをもとに、
低圧受液器は何をしているのか。
なぜ蒸発器へ液冷媒を多めに送るのか。
蒸発器出口に液が残っていても、なぜ圧縮機へ液が入らないのか。
p-h線図ではどのように見えるのか。
乾き度とは何なのか。
冷凍能力やCOPはどのように計算するのか。
という流れで解説します。
冷凍理論は資格試験のためだけの知識ではありません。
圧力、温度、冷媒流量、比エンタルピーの関係を理解すると、実際の冷凍設備の中で冷媒がどのような状態で流れているのかを考えやすくなります。
1.まず、直膨式との違い
一般的な業務用エアコンで多く使われている直膨式では、
膨張装置
↓
蒸発器
↓
冷媒が蒸発
↓
蒸発器出口で蒸気
↓
圧縮機
という流れになります。
圧縮機へ液冷媒を戻さないため、蒸発器出口では冷媒を蒸気にし、適切な過熱度を確保することが重要になります。
これに対して、液ポンプ再循環式の満液式蒸発器では、
低圧受液器
↓
液ポンプ
↓
蒸発器
↓
液と蒸気が混ざった状態
↓
低圧受液器
という循環を作ります。
ここが大きな違いです。
蒸発器出口で冷媒を全部蒸発させなくてもよいのです。
2.低圧受液器とは何をする機器なのか
低圧受液器には、大きく二つの役割があります。
一つは、低圧側の液冷媒を保持すること。
もう一つが、蒸発器から戻ってきた液冷媒と冷媒蒸気を分離することです。
蒸発器を出た冷媒が液と蒸気の混合状態でも、そのまま圧縮機へ入るわけではありません。
低圧受液器へ戻り、
蒸気は上部から圧縮機側へ
液は下部に残る
という形で分離されます。
下部に残った液冷媒は、再び液ポンプによって蒸発器へ送られます。

3.なぜ蒸発する量より多くの冷媒を流すのか
液ポンプ再循環式では、蒸発器で実際に蒸発する量より多めの液冷媒を蒸発器へ供給します。
例えば、実際に蒸発する量が0.10kg/sだったとします。
これに対して、液ポンプから蒸発器へ0.20kg/sの冷媒を送ったとします。
蒸発器へ入った0.20kg/sすべてを蒸発させる必要はありません。
一部が蒸発し、残った液冷媒を含む状態で低圧受液器へ戻します。
このように液冷媒を十分に供給することで、蒸発器の伝熱面を液冷媒で濡らしながら熱交換を行います。
蒸発しなかった冷媒も低圧受液器へ戻るため、無駄になるわけではありません。
4.冷媒循環比とは
このときに使われる考え方の一つが、冷媒循環比です。
簡単な例では、
冷媒循環比 = 蒸発器へ送る冷媒量 ÷ 実際に蒸発する冷媒量
と考えます。
先ほどの例なら、
0.20 ÷ 0.10 = 2
です。
つまり、
実際に蒸発する量の2倍の冷媒を蒸発器へ循環させている
ということになります。
ただし、冷媒をたくさん流せばよいという意味ではありません。
実際には蒸発器の構造、負荷、使用冷媒、配管圧力損失、液ポンプ能力などを考慮して設計されます。
5.蒸発器出口に液が残っていてもよい
直膨式のエアコンを基準に考えると、
「蒸発器出口に液冷媒が残っていたら液バックするのでは?」
という疑問が出てきます。
ここで低圧受液器が重要になります。
液ポンプ再循環式では、蒸発器出口の気液二相冷媒を一度低圧受液器へ戻します。
低圧受液器で液と蒸気を分離するため、
蒸発器出口に液が残っていること
と、
圧縮機へ液冷媒を吸い込ませること
は同じではありません。
この考え方が、直膨式と満液式の大きな違いです。
6.p-h線図ではどのように見えるのか
冷凍分野では、冷媒の状態を見るためにp-h線図を使います。
縦軸が圧力 p。
横軸が比エンタルピー hです。
p-h線図の中央には、飽和液線と飽和蒸気線に囲まれた領域があります。
この内部が、
液と蒸気が共存する湿り蒸気領域
です。
左側に近いほど液の割合が多く、右側へ進むにつれて蒸気の割合が増えていきます。
蒸発器では冷媒が熱を受け取るため、p-h線図上では低圧側を右方向へ進みます。
直膨式では最終的に飽和蒸気線を越えて過熱蒸気側へ進むことが多いのに対して、液ポンプ再循環式では湿り蒸気領域の途中で蒸発器を出ることができます。
p-h線図と装置を合わせて見る
多少見づらいですが手書きノートでは、
低圧受液器
液ポンプ
蒸発器
各状態点
とp-h線図を書いています。
設備図だけを見るより、
「この配管位置の冷媒が、p-h線図のどこにいるのか」
を合わせて見ると理解していただけるかと思います。
7.乾き度とは
湿り蒸気領域にある冷媒の状態を表すときに使うのが、乾き度です。
乾き度とは、
液と蒸気が混在している冷媒のうち、質量でどれだけが蒸気なのか
を表します。
乾き度をxとすると、
x = 0
なら、すべて飽和液。
x = 1
なら、すべて乾き飽和蒸気です。
例えば、
x = 0.8
なら、
質量基準で約80%が蒸気、約20%が液
という意味です。
注意したいのは、乾き度は体積割合ではなく質量割合だということです。
8.エンタルピーから乾き度を求める
湿り蒸気の比エンタルピーが分かれば、乾き度を求めることができます。
同じ圧力で、
飽和液の比エンタルピー = hf
飽和蒸気の比エンタルピー = hg
湿り蒸気の比エンタルピー = h
とすると、
乾き度 x = (h - hf) ÷ (hg - hf)
です。
例えば、
hf = 164kJ/kg
hg = 390kJ/kg
湿り蒸気 h = 362.75kJ/kg
なら、
x = (362.75 - 164) ÷ (390 - 164)
= 198.75 ÷ 226
= 約0.88
です。
したがって、
乾き度は約0.88
となります。
これは質量基準で、
約88%が蒸気
約12%が液
という状態です。
このように、蒸発器出口で液が残った状態を数値で表すことができます。
9.ここから冷凍能力を計算する
ここでは学習用の単純な冷凍サイクルを使って、
冷凍能力
理論圧縮軸動力
COP
まで計算してみます。
条件は、
冷媒流量 = 0.25kg/s
圧縮機吸入比エンタルピー h1 = 390kJ/kg
凝縮器出口比エンタルピー h3 = 231kJ/kg
理論圧縮後比エンタルピー h2 = 438kJ/kg
とします。
10.まず「冷凍効果」を求める
冷凍効果とは、
冷媒1kgが蒸発器でどれだけ熱を吸収するか
を表す数値です。
今回の場合、
冷凍効果 = 390 - 231
= 159kJ/kg
となります。
つまり、
冷媒1kg当たり159kJの熱を吸収する
という意味です。
11.冷凍能力を求める
冷凍能力は、
冷媒流量 × 冷凍効果
です。
したがって、
0.25 × 159
= 39.75kW
となります。
冷凍能力
約39.8kW
です。
これは、
1秒間に約39.8kJの熱を低温側から取り除いている
という意味になります。
12.理論圧縮軸動力を求める
次に圧縮機です。
圧縮機吸入の比エンタルピーは、
390kJ/kg
理論圧縮後は、
438kJ/kg
です。
したがって、冷媒1kg当たりの理論圧縮仕事は、
438 - 390
= 48kJ/kg
です。
冷媒流量が0.25kg/sなので、
理論圧縮軸動力は、
0.25 × 48
= 12.0kW
となります。
理論圧縮軸動力
12.0kW
です。
これは実際の冷凍装置全体の消費電力ではありません。
損失を無視した、理論上の圧縮機軸動力です。
13.COPを求める
COPは成績係数と呼ばれます。
簡単に言えば、
投入した圧縮仕事に対して、どれだけの冷凍能力を得られたか
を見る数値です。
計算式は、
COP = 冷凍能力 ÷ 理論圧縮軸動力
です。
39.75 ÷ 12.0
= 約3.31
となります。
理論COP
約3.31
です。
理論上、
圧縮機へ1の仕事を与えることで、約3.31の冷凍能力を得ている
ということになります。
14.COPが1を超えるのはなぜか
冷凍機は電気エネルギーだけから「冷たさ」を作っているわけではありません。
圧縮機の仕事を使って、
低温側にある熱を高温側へ移動させています。
今回なら、
低温側から吸収する熱 = 39.75kW
圧縮機から加える仕事 = 12.0kW
なので、高温側の凝縮器で放出する熱量は、
39.75 + 12.0
= 51.75kW
となります。
つまり、
39.75kWの熱を運ぶために12kWの理論圧縮仕事を使っている
と考えると理解しやすくなります。
15.直膨式と液ポンプ再循環式を整理
| 項目 | 直膨式 | 液ポンプ再循環式 |
|---|---|---|
| 蒸発器への冷媒供給 | 膨張装置 | 低圧受液器+液ポンプ |
| 蒸発器出口 | 基本的に蒸気 | 気液二相でも可能 |
| 過熱度 | 重要 | 蒸発器出口では必須ではない |
| 蒸発器出口の液 | 基本的に残さない | 液が残る運転が可能 |
| 気液分離 | 通常は行わない | 低圧受液器で行う |
| 液冷媒の再循環 | 基本的になし | 液ポンプで再循環 |
| 乾き度 | 主に蒸発途中の状態 | 蒸発器出口状態にも使用 |
どちらが優れているという話ではありません。
設備の用途、規模、温度条件などによって適した方式が異なります。
16.まとめ
低圧受液器を使った液ポンプ再循環式では、
低圧受液器に液冷媒を保持する
↓
液ポンプで蒸発器へ送る
↓
蒸発器で一部を蒸発させる
↓
液と蒸気が混ざった状態で低圧受液器へ戻す
↓
液と蒸気を分離する
↓
蒸気は圧縮機へ、液は再び蒸発器へ
という流れを繰り返します。
この方式では、蒸発器出口に液冷媒が残っていても、低圧受液器で気液分離することができます。
p-h線図では、蒸発器出口が湿り蒸気領域にある場合があり、その状態は乾き度で表すことができます。
今回の計算例では、
冷凍能力 = 39.75kW
理論圧縮軸動力 = 12.0kW
理論COP = 約3.31
乾き度の計算例 = 約0.88
となりました。
重要なのは、これらの数字を覚えることではなく、
冷媒が設備のどこを流れ、その場所でどのような状態になっているのかを考えること。
冷凍理論は、試験問題を解くためだけではなく、実際の設備で測定した圧力や温度の意味を考えるための基礎にもなります。
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